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肥満症治療において見過ごされがちな「スティグマ(偏見)」とは

2026年5月7日

肥満症治療において見過ごされがちな

「スティグマ(偏見)」とは

――肥満症を正しく理解し、適切な治療につなげるために――

 

近年、肥満症は単なる「生活習慣の乱れ」ではなく、さまざまな要因が重なって発症する“慢性疾患”として捉えられるようになってきました。しかし現実の医療現場や社会では、いまだに「食べ過ぎ」「自己管理不足」といった偏見(スティグマ)が根強く残っています。

 

■ 肥満に対する2つのスティグマ

肥満に関するスティグマには、大きく2つの側面があります。

1つは、医療者や社会から向けられる「社会的スティグマ」です。

「太っているのは自己管理ができていないから」といった見方が、適切な理解や支援を妨げることがあります。

もう1つは、患者さん自身が抱えてしまう「個人的スティグマ(自己スティグマ)」です。

「自分の努力不足だから仕方ない」「医療に頼るべきではない」と考え、受診をためらってしまうケースも少なくありません。

この“内在化された偏見”こそが、治療の大きな障壁となっています。

 

■ 肥満は「多因子で起こる病気」です

肥満の発症には、以下のような複数の要因が関与しています。

・遺伝的要因(複数の遺伝子の影響)

・胎児期や乳児期の環境(将来の体質に影響)

・生活習慣(食事・運動・睡眠など)

・心理社会的ストレス

・食品環境(高脂肪・高糖質の食品へのアクセスのしやすさ)

これらが相互に影響し合い、肥満が形成されます。

つまり肥満は「意志の弱さ」ではなく、「生物学的要因と環境要因が重なった結果」と言えます。

 

■ 日本人に多い「内臓脂肪型肥満」の特徴

日本では、2024年の国民健康・栄養調査において、男性の約3人に1人、女性の約5人に1人が肥満(BMI25以上)と報告されています。

特に注意すべき点は、日本人は欧米人と比べて、皮下脂肪に脂肪をため込む能力が低いとされていることです。そのため、比較的BMIが高くなくても、脂肪が肝臓や膵臓、筋肉などに蓄積しやすく、「内臓脂肪型肥満」へ移行しやすい特徴があります。

この状態は、糖尿病や脂肪肝、心血管疾患などの発症リスクを高めるため、「見た目が軽度だから安心」とは言えません。

 

■ 食欲には2つのタイプがあります

食欲は脳によって調節されており、大きく2つに分けられます。

・恒常性食欲:エネルギー不足を補うための食欲(満腹で抑えられる)

・快楽的食欲:おいしさやストレス解消のための食欲(抑制されにくい)

特に後者の「快楽的食欲」は、スナック菓子や清涼飲料、加工食品などの“超加工食品”によって強く刺激されます。その結果、満腹であっても食べ続けてしまう行動につながることがあります。

現代社会では、この快楽的食欲を刺激する環境が身近にあるため、「個人の努力だけでコントロールすることが難しい」状況になっています。

 

■ 新しい治療の選択肢:GLP-1関連薬

近年、肥満症治療において注目されているのが、GLP-1受容体作動薬やGLP-1/GIP共受容体作動薬です。

これらの薬剤には、

・胃の動きをゆっくりにして満腹感を持続させる
・脳に作用して食欲を抑える

といった働きがあります。

さらに最近では、脳の「報酬系」にも作用し、「もっと食べたい」という欲求(快楽的食欲)を弱める可能性も示唆されています。

ただし、これらの薬剤は万能ではありません。効果には個人差があり、食欲が完全になくなるわけではないため、食事や運動などの生活習慣の見直しと併せて取り組むことが大切です。

 

■ 医療の役割とは

肥満症の治療において最も重要なのは、「責めること」ではなく「支えること」です。

患者さんが抱えるスティグマを取り除き、

「これは治療できる病気である」という認識を持っていただくことが、第一歩となります。

当院では、医学的根拠に基づいた治療とともに、患者さん一人ひとりに寄り添ったサポートを大切にしています。

「体重のことで悩んでいるけれど、相談してよいのか分からない」

そのような方も、どうぞ安心してご相談ください。

適切な治療とサポートにより、健康的な生活への一歩を一緒に踏み出していきましょう。