Dementia認知症
ご家族や周囲の人が認知症になってしまうと、
日々の生活の中で、悲しくなったり、もどかしくなったり、
時には腹立たしい感情が湧いてくることもあるかと思います。
認知症の人との関わり方の基本は、
認知症が病気であるということをしっかりと理解したうえで
接することが重要になってきます。
認知症とは
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。認知症は、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきるアルツハイマ-型認知症や、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症など、いくつかの種類があります。
認知症になると、まず短期記憶から失われていきます。いわゆる「もの忘れ」の症状ですが、短期記憶とは数分前から数時間前の記憶のことで、当日の食事やトイレの記憶がなくなってしまいます。病気が進行すると、歩く・食べる・排泄するといった人間の日常動作すらわからなくなってしまいます。人間が生きて行くために必要な食欲という「欲」自体も忘れてしまい、目の前のものが食べ物かどうかの判断も難しくなってしまうこともあります。
加齢に伴う「もの忘れ」と区別するのは難しい部分もありますが、
認知症の主な症状についてまとめてみました。
症状には大きく分けて、「中核症状」と「周辺症状」の2種類があります。
認知症の主な症状
【中核症状】
- 記憶障害(もの忘れ)
-
- 数分前、数時間前の出来事をすぐ忘れる
- 同じことを何度も言う・聞く
- しまい忘れや置き忘れが増えて、いつも探し物をしている
- 約束を忘れる
- 昔から知っている物や人の名前が出てこない
- 同じものを何個も買ってくる
- 見当識障害(時間・場所がわからない)
-
- 日付や曜日がわからなくなる
- 慣れた道で迷うことがある
- 出来事の前後関係がわからなくなる
- 時間の概念がなくなる
- 失語(言葉の障害)
-
- 言葉のやりとりができない
- ものの名前がわからなくなる
- 相手の話が理解できない
- 文字を読んだり書いたりできない
- 失行(行為の障害)
-
- 箸を使えない、ボタンをはめられないなど日常的に行っていることができない
- 食べこぼしが増える
- 洗面や入浴の仕方がわからなくなる
- 失禁が増える
- 失認(認識の障害)
-
- ものの形や色が分からない
- 日常使っているものを触っても、それが何か分からない
- 状況や説明が理解できなくなる、テレビ番組の内容が理解できなくなる
- 実行機能障害(日常生活ができない)
-
- 調理の味付けを間違える、掃除や洗濯がきちんとできなくなる
- 手続きや貯金の出し入れができなくなる
- 調理の味付けを間違える、掃除や洗濯がきちんとできなくなる
- 身だしなみを構わなくなる、季節に合った服装を選ぶことができなくなる
- 運転などのミスが多くなる
- 仕事や家事・趣味の段取りが悪くなる、時間がかかるようになる
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)
【周辺症状】
- 不安、一人になると怖がったり寂しがったりする
- 憂うつでふさぎこむ、何をするのも億劫がる、趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなる
- 怒りっぽくなる、イライラ、些細なことで腹を立てる
- 誰もいないのに、誰かがいると主張する(幻視)
- 自分のものを誰かに盗まれたと疑う(もの盗られ妄想)
- 目的を持って外出しても途中で忘れてしまい帰れなくなってしまう
加齢による「もの忘れ」と 認知症による「もの忘れ」の違い
「もの忘れ」には、認知症によらないもの(主に加齢によるもの)もありますが、
高齢者の場合、認知症によるものか、加齢によるものかを区別することは、現実にはなかなか難しいものです。
これがすべてということではないですが、認知症に気づくためには、次のようなサインが役立ちます。
- 1
日常生活に支障をきたしているか - 日常生活で重要ではないことや知識(芸能人の名前やテレビ番組のタイトル、昔読んだ本の名前など)を思い出せないのは加齢によるもの忘れの範囲内ですが、自分の経験した出来事自体(旅行に行ったことや、病院に行ったことなど)を忘れたり、大事な約束を忘れるなどの場合は認知症のサインかもしれません。
- 2
本人が忘れっぽくなったことを
自覚しているか - 「もの忘れ」があっても、本人の自覚があり続ける場合は加齢による「もの忘れ」の範囲内かもしれません。最初は「もの忘れ」を自覚していても、次第に「もの忘れ」をしていることに気づけなくなり、話の中でつじつまを合わせようとすることがあれば認知症のサインかもしれません。
- 3
「もの忘れ」の範囲が一部か全体か - 経験の一部を忘れるのは加齢による「もの忘れ」の範囲内ですが、経験全体を忘れるのは認知症のサインかもしれません。例えば、朝ごはんに何を食べたかを思い出せないのは加齢による「もの忘れ」になると思いますが、朝ごはんを食べたこと自体を忘れるようなら認知症のサインかもしれません。
介護のポイント
認知症の方の介護をするにあたっては、
家族や周囲の人が「忘れてしまうのは、病気である」ということを理解して、
本人の気持ちに寄り添った対応を心がけることが必要になります。
認知症の人は、自分のできないことが増えてくることに対して、不安や焦りなどを感じてしまいます。
そのような状態にあっては、本人がどのような行動を好み、嫌がるかを知ることが重要なポイントになります。
- 認知症の人が好む行動
-
- 安心できる場所で過ごす
- 安心できる人と関わりたい
- 安心できる人との繋がりを求める
- 自分がやりたいこと、できることは積極的におこないたい
- 自分の得意な事や、昔の栄光を周りの人に認めてもらいたい
- 認知症の人が嫌う行動
-
- いつもと違った環境で過ごす
- いつもと違った人と関わりを持つ
- 自分自身を否定される
- 自分の言葉や行動を否定される
- 新しいことをしなければならない
日々の介護にあたっている人は、特に血のつながった肉親ほど、ついつい言葉がきつくなってしまったり、怒ってしまったり、いらいらを顔に出してしまったりしてしまいがちです。しかし、認知症の人は、自分の好まない行動を強要されたり、孤独感を味わったり、プライドを傷つけられると、周辺症状が発生しやすくなってしまいます。
「正しいこと・失敗しないこと」というよりも、「どうしたら円滑・円満に事が運ぶか」を考え、対応していくことが大事になります。
認知症の人の行動にも意味があることを理解し、なぜその言動をとるかということを考えながら接することで、不穏や暴言などの様々な周辺症状も軽減することができるようになります。
認知症の接し方
- せかさず、ゆっくり待つ
- 責めない、怒らない、否定しない
- 褒める、感謝する、相槌をうつ
- 子供のように扱わない
- 相手の気持ちを理解し、受け入れる
- スキンシップ、アイコンタクト、ジェスチャ-
介護疲れしないために
認知症の人を介護する場合、想像以上に心身の負担が大きく、介護する人が疲れ切ってしまうケースが多くみられます。自宅で過ごしたいという思いを叶えてあげたいがために必死になりすぎ、肉体的・身体的疲労から、介護者が病気になってしまうこともあります。
介護疲れをしないためには、全てを一人で抱え込まず、家族や親戚、あるいは保険センター、地域包括支援センター、在宅介護支援センターなどの専門機関に相談してみることをお勧めします。
また、訪問介護やデイサービス、ショ-トステイなどの介護サービスを上手に取り入れ、介護者の負担を少しでも減らすことはとても有効です。
認知症に対する正しい知識と理解を持つことで、介護者の心に余裕が生まれます。
介護者の心の余裕は、在宅介護をストレスなく続けるための大きなポイントになります。